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商標における称呼の認定について、商標審査基準とは異なる判断が示された事例

判決・審決レポート

公開日:2020年11月24日

商標における称呼の認定について、商標審査基準とは異なる判断が示された事例

目次

  1. 審判番号
  2. 審決の内容
  3. 弁理士の考察

審判番号

不服2007-17124

審決の内容

本願商標は、後掲のとおり、中央に大きく毛筆体で「足技」の文字を横書きし、その右側部分に小さく「あしぎ」の文字を縦に書し、上記「足技」の文字の下方に小さく「Sugiyama Ashigi Method」(その構成中の「S」、「A」、「M」の各文字のみ朱色)の文字を横書きした構成よりなるところ、その構成中の「あしぎ」の文字は、その左側に大きく書した「足技」の文字の読みを特定したものであると無理なく認識できるものであり、また、「足技」の文字の下方に書されている「Sugiyama Ashigi Method」の文字中に、「Ashigi」の文字が含まれていることも相まって、「足技」の文字よりは、単に「アシギ」の称呼のみ生じるものと認められる。

そうすると、本願商標より、「アシワザ」の称呼をも生ずるとし、その上で、本願商標と引用商標とが称呼上類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は妥当でなく、取消しを免れない。

その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

弁理士のコメント

特許庁が公表する商標審査基準には、商標における称呼の認定について、次のように記載されています。

<商標審査基準「十、第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」>

称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音をいう。例えば、次のとおり称呼の認定を行う。
・「ベニウメ」の振り仮名を付した商標「紅梅」からは、自然に称呼される「コウバイ」の称呼も生ずるものとする。

そのため、この基準に照らして本願商標から生じる称呼を考えると、本願商標に構成される「足技」の文字は、「アシワザ」と読むのが自然であることから、このような点を踏まえれば、本願商標からは、別に構成される「あしぎ」や「Ashigi」の文字とは関係なく、自然な称呼として「アシワザ」との称呼をも生ずると考えるのが自然です。

しかし、本審決では、上記審査基準とは異なり、「本願商標に構成される『あしぎ』の文字は、その左側に大きく書した『足技』の文字の読みを特定したものであると無理なく認識できること」等から、本願商標からは、「『アシワザ』ではなく、『あしぎ』等の文字に相応した『アシギ』との称呼のみが生じる」ものと認定しています。

したがって、このような本審決の内容に照らせば、商標における称呼の認定において、

商標に構成される「ある文字」が「他の文字」の読みを特定したものであると無理なく認識できる場合には、その商標からは、当該「他の文字」から生じる自然な称呼ではなく、当該「ある文字」の読みに従った称呼のみが生じる。

との例外的な判断(上記審査基準の例外)も許されるのではないでしょうか。

このように本審決は、商標における称呼の認定について、上記審査基準とは異なる判断が許されるケースの一つといえることから、ご参考までにご紹介させていただきます。