ビジネスモデル特許について
特許
公開日:2018年10月01日
目次
はじめに
ビジネスモデルには、商品の販売方法や宣伝広告方法、電子商取引の方法等、様々なものが存在しますが、「ビジネスモデル特許」という言葉からすれば、ビジネスモデルそれ自体について、「特許権を取得することができるのではないか」と考えるのが自然ではないでしょうか。
しかし、実際には、ビジネスモデルそれ自体が、特許権の対象になることはありません。以下、このことについて、順にご説明いたします。
特許権として保護されるものとは?
特許権とは、技術的なアイデアである「発明」に関する権利であることから、特許権として保護を受けるためには、その対象が「発明」である必要があります。
では、ここでいう「発明」とは、どのようなものなのでしょうか?特許法では、この「発明」について、次のように規定しています。
特許法第2条第1項
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
この規定によれば、発明とは、「自然法則を利用した…」とあることから、特許権として保護を受けることのできる「発明」に該当するためには、少なくとも、自然法則を利用している必要があります(以下、この発明のことを「法上の発明」といいます)。
ビジネスモデルそれ自体が特許権として保護されない理由
ここで、次のようなビジネスモデルそれ自体が、「法上の発明」に該当するかを見ていきましょう。
ビジネスモデルの例1
ビジネスモデルの構成
- 3組の営業チームを作る(第1から第3の営業チーム)
- 第1の営業チームを営業に向かわす
- 第1の営業チームが営業した2日後に、第2の営業チームを営業に向かわす
- 第2の営業チームが営業した5日後に、第3の営業チームを営業に向かわす
このビジネスモデルによって得られる効果
3組の営業チームを順次、営業に向かわせることで、顧客の購買意欲を高め、多くの商品を販売することができる。
上記ビジネスモデル例1の「法上の発明」該当性
上記のとおり、「法上の発明」というためには、少なくとも、それが自然法則を利用している必要があります。
しかし、上記ビジネスモデル例1は、「3組の営業チームを順次、営業に向かわせる」ことを人為的に取り決め、「顧客の購買意欲を高め、多くの商品を販売することができる」という点において、「経済法則」や「人間の精神活動」を利用しているにすぎないことから、上記ビジネスモデル例1が自然法則を利用しているということはできません。
よって、上記ビジネスモデル例1は、「法上の発明」に該当しないことから、特許権の対象になることはありません。
ビジネスモデルそれ自体は特許権として保護されない
上記ビジネスモデル例1で見たように、ビジネスモデルそれ自体の内容は、人為的に取り決めたものであって、「経済法則」や「人間の精神活動」等を利用しているにすぎないことから、ビジネスモデルそれ自体が、自然法則を利用しているということはできません。
よって、ビジネスモデルそれ自体は、「法上の発明」に該当しないことから、これが、特許権として保護されることはありません。
ビジネスモデル特許とは?
ビジネスモデル特許が保護するものとは?
「ビジネスモデル特許」という言葉からは、あまり想像することができませんが、「ビジネスモデル特許」とは、「コンピュータ・ソフトウェア関連発明の特許」のことをいいます。
そのため、「ビジネスモデル特許」が特許権の対象とするのは、ビジネスモデルそれ自体ではなく、あくまで、「コンピュータ(装置)」や既存のコンピュータ又はネットワーク・システムを用いて、ある一定の作用を実現する「ソフトウエア」となります。
そして、特許権の対象となる「コンピュータ(装置)」や上記のような「ソフトウエア」が、ビジネスを行う際に使用する(欠かせない)ものであれば、これらの「コンピュータ(装置)」や「ソフトウエア」を特許権として保護することで、そのビジネスモデルそれ自体が、間接的に(結果として)、保護されることになります。
したがって、「ビジネスモデル特許」は、ビジネスを行う際に使用する「コンピュータ(装置)」や上記のような「ソフトウエア」を特許権の対象とすることで、間接的に(結果として)、そのビジネスモデルそれ自体を保護するものといえます。
具体例
少し抽象的ですので、ビジネスモデル特許が、間接的にビジネスモデルそれ自体を保護している具体例を見てみましょう。
ビジネスモデルの例2
ビジネスモデルの内容
商品の購入ポイントに応じた景品の内容を、その都度、顧客に知らせることで、顧客の購買意欲を高める(顧客の来店を促し、売上UPにつなげる)。
使用するシステム
ポイントを管理するコンピュータシステム
システムの役割
商品の購入ポイントを効率的に管理するとともに、そのポイントに応じた景品の内容を、その都度、顧客にメールする。
ビジネスとシステムの関係性
当該システムは、膨大な顧客の各購入ポイントを一斉に管理し、そのポイントに応じた景品の内容を、逐一顧客にメール送信することから、このビジネスモデルは、当該システムを使用することで、初めて実現される。
上記ビジネスモデル例2の間接的保護
当該システムに特許権が発生すると、誰も(他人は)当該システムを使用することができなくなります。当該システムの特許権者に無断で、当該システムを使用すれば、特許権侵害となるからです。
そのため、他人は、当該システムが使えない以上、膨大な顧客の各購入ポイントを一斉に管理し、そのポイントに応じた景品の内容を、逐一顧客に知らせることはできません。そうすると、結局、誰も当該システムを使った上記ビジネスモデル例2を行うことができないことから、このビジネスモデル例2は、当該システムの特許権によって、間接的に保護されることになります。
※なお、当該システムについて特許権を取得するためには、新規性、進歩性等の要件をクリアすることが必要になります。
※ビジネスモデルそれ自体は、特許権によって、直接的に保護されているものではありません。よって、そのビジネスモデルが、特許権を取得したコンピュータシステムと異なるコンピュータシステムを用いて、実現できるような場合には、そのビジネスモデル自体を独占することはできません。
ビジネスモデル特許を取得する意義
このように、ビジネスモデルそれ自体に特許権を取得することはできませんが、そこで使用されるコンピュータシステム(コンピュータ装置やソフトウエア)が、そのビジネスモデルに必要不可欠であるような場合には、競業他者との差別化を図る上でも、ビジネスモデル特許(コンピュータシステム部分の特許)を取得する意義は大きいといえます。
まとめ
今回は、ビジネスモデル特許について、ご説明させていただきましたが、これを機に、ビジネスモデル特許の取得について、一度、ご検討されてみてはいかがでしょうか。