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商標法第3条第1項第6号に規定される商標の具体的な内容が示された事例

判決・審決レポート

公開日:2020年12月14日

商標法第3条第1項第6号に規定される商標の具体的な内容が示された事例

目次

  1. 審判番号
  2. 審決の内容
  3. 弁理士のコメント

審判番号

 不服2005-20055

審決の内容

本願商標は、別掲に表示するとおり、「保険市場」の文字よりなるところ、・・・を意味する語としての記載がある。

ところで、商標法3条1項6号にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」としては、「構成自体が商標としての体をなしていないなど、そもそも自他商品識別力を持ち得ないもののほか、同項1号から5号までには該当しないが、一応、その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないと推定されるもの、及び、その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものと推定はされないが、取引の実情を考慮すると、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものがあるということができる。」(知財高裁平成18年3月9日判決 平成17年(行ケ)10651号参照。)と解される。

そうすると、本願商標は、一体として、「保険の取引を行う場所」という観念が生じ得るから、そもそも自他役務識別力を持ち得ないものとか、その構成自体から自他役務識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものとかの推定が働くものではないというべきである。

また、取引の実情を考慮した場合に自他役務の識別力を有するかについて、検討するに、提出された証拠において使用されている商標に係る「保険市場」の文字は、・・・「ホケンイチバ」と称呼されて使用されていることを認めることができる。

そして、全国で約158店舗(証拠においては、そのうち73店舗の店内等の写真)において、各種保険に関するチラシ、パンフレット等に上記(a)ないし(c)の標章を付して表示していたことが認められる。

上記認定の事実によれば、請求人により「保険市場」の標章は、・・・本願指定役務に係る分野の取引者、需要者の間に、請求人の業務に係る各種保険の取引業務を表示すものとして、広く知られ、かつ、本願の指定役務に使用した結果、本願商標に接する取引者、需要者に請求人の業務に係る役務であることを十分認識させるにいたっていたものと判断するのが相当である。

してみれば、本願商標は、その指定役務について使用しても、「取引者、需要者間において、請求人の業務に係る役務を表示する商標として、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであり、他に、本願商標を何人かの業務に係る役務であるかを認識することができない商標としなければならない」ものとすることはできない。

したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当するということはできないから、本願を拒絶した原査定は妥当でなく、取消を免れない。

その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

弁理士のコメント

本審決では、商標法第3条第1項第6号にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」について、次のように述べています。

<商標法第3条第1項第6号にいう商標について>
  1. ① 構成自体が商標としての体をなしていないなど、そもそも自他商品識別力を持ち得ないもの。
  2. ② 商標法第3条第1項1号から5号までには該当しないが、一応、その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないと推定されるもの。
  3. ③ その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものと推定はされないが、取引の実情を考慮すると、自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないもの。

商標法第3条第1項第6号は、その内容からもわかるとおり、とても抽象的な規定となっています(以下の参考条文を参照)。そのため、「どのような商標が同号に該当するのか」との判断は、特許庁が公表する商標審査基準を参照したとしても、なかなか難しい面があるのではないでしょうか。

そのような中、本審決が述べる上記①~③の点は、商標法第3条第1項第6号にいう商標について、その該当性判断における一つの枠組みを示すものといえることから、本審決が示す内容は、「どのような商標が同号に該当するのか」との判断において、大いに参考になるものと思われます。

出願した商標が、商標法第3条第1項第6号に該当するとして拒絶された場合等でも、本審決が述べる上記①~③の点を踏まえた反論を行うことで、より説得力のある主張が可能になると思われることから、必要に応じて、本審決を参考にされてみてはいかがでしょうか。なお、本審決が参照する「知財高裁平成18年3月9日判決 平成17年(行ケ)10651号」については、別の機会にご紹介させていただきます。

<参考条文>
  • ■商標法第3条第1項第6号
  • 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

※ここでいう「前各号」とは、商標法第3条第1項第1号から第5号までのこと。